離島の未来──と聞いて、あまり明るいビジョンを思い描けないという人は多いかもしれない。 時に「日本の縮図」とも呼ばれるように、離島は、住民の高齢化や観光客の減少、若年層の流出など、島国・日本の持つあらゆる社会課題を抱え込んでいる。

しかし一方で、数十年後の未来を見据え、その島独自の環境や産業を活かした発展を目指している離島もある。まだ取り組みの知名度は高くないが、玄界灘に浮かぶ離島・長崎県壱岐市(壱岐島)はその好例だ。二○一八年六月、壱岐市は公募の結果、国が選定する「SDGs未来都市」および「自治体SDGsモデル事業」に認定された。

SDGsとは、二○一五年に国連が採択した世界目標。二〇三〇年を期限として「誰ひとり取り残さない」社会を実現するため、貧困の撲滅やジェンダー平等の実現、環境の持続可能性確保といった一七のアジェンダの達成を目指している。

このSDGsの達成に向けた優れた取り組みを提案し、地方創生を戦略的に進めようとしている自治体が「SDGs未来都市」だ。壱岐市は全国二九都市の「SDGs未来都市」のうちのひとつに選ばれ、さらにその中で先導的な取り組みを目指している、「自治体SDGsモデル事業」の選定も受けた。

「壱岐は古来から、大陸と九州をつなぐ交流・交易の拠点だった島です。もともと、島外の人や文化を受け入れて、そこから新しい文化を発展させていく土壌があるところなんですよ」

壱岐という島の特性についてそう語るのは、壱岐市役所 総務部SDGs未来課の小川和伸さんと、SDGsモデル事業を協働で進めている一般社団法人「壱岐みらい創りサイト」事務局長の篠原一生さんだ。
壱岐市がSDGs未来都市に選定された背景には、トップの積極的な姿勢とリーダーシップに加え、経済分野における取り組みの先進性があったという。

「SDGs未来都市の公募があることを知り、まず最初に飛びついたのが市長(壱岐市長の白川博一さん)でした。エントリーのきっかけは、壱岐市内でのSDGsの認知度を向上させるとともに、SDGs達成に向けて壱岐でもなにか取り組むことはできないか、という思いだったといいます。公募にあたっての提案は、壱岐市と『壱岐みらい創りサイト』のメンバーが協働しアイデアを出し合ってまとめました。

その際、壱岐市の提案の核となったのが、最新テクノロジーを駆使した『スマート農業』の実現を含む産業のハイテク化です。高齢化が進む壱岐の基幹産業をAIやIoTの力で変えてゆき、二〇三〇年にはそれらの産業を中心とした経済発展を実現するという提案が、エッジの立った取り組みだということで評価され、採択の際の大きな要因になりました。

環境分野での優れた提案を推す都市が多い中で、壱岐が離島という立場から『誰ひとり取り残さない』というSDGsの趣旨をくみ取り、生活の基盤となる経済分野の提案を推したことも、ギャップとして注目されたのかもしれません」

「スマート農業」を含めたSDGsモデル事業は、二〇二〇年度の実現を目指し、すでに実証段階に入っている。しかし、壱岐市の未来都市構想はそれだけではない──と、小川さん、篠原さんは言う。

「ほかの取り組みとして、いままさに進めているのが、テレワークの推進や起業家の人材育成です。

テレワークの推進は、壱岐市にあるテレワークセンターを拠点に、市で募集したプログラマー志望の若者を育成する事業と連携しておこなっています。これは、プログラマー志望の壱岐出身者に四ヶ月間、福岡の企業で研修を受けてもらい、その後壱岐に帰ってきてプログラマーとして勤務してもらう、という制度です。昨年度は、すでに三名のプログラマーがここ壱岐に生まれました。将来的には、その方々に新たなプログラマーの育成もお願いすることができたらと思っています。

そして起業家の人材育成というのは、『壱岐YOYO』というプロジェクトです。これは、地域おこし協力隊の制度を活用して壱岐に誘致し、ご自身が考えている壱岐の課題や島民の理想・夢をベースに、三年後までに起業を目指してもらうという制度。そのプロジェクトメンバーたちのワクワクするような起業家的な新しい生き方・暮らし方を、島内外の人々に発信し、定住・移住を促していこうというものです。これはまだ始まったばかりのプロジェクトですが、大きな期待を寄せています」

 
 

壱岐では、市の課題解決や未来に向けてのアイデアが島民同士の「対話会」の中で頻繁に生まれる、という。

「対話会」とは、壱岐市が二〇一五年から富士ゼロックスと共同で取り組んでいる「みらい創り対話会」という場のことだ。ここでは、年齢や性別、また壱岐島民であるか否かも問わず希望者を募り、「実現したい壱岐の未来」について参加者同士がざっくばらんに対話する。

二〇一五年に開催された第一回の対話会の参加者は十名ほどだったが、初回に参加したふたりの高校生を中心に口コミが広がり、いまでは毎回満員になるほどの参加者が集まる。これまでに対話会に参加した約千名のうち、半数以上は自主的に集まった高校生だった。

「壱岐島外の方がいらっしゃると、みらい創り対話会の白熱ぶりにいつも驚かれます。この対話会の企画・進行には、富士ゼロックスがかねてより研究しているコミュニケーション理論を取り入れているのですが、これが多くの参加者から『面白かった』『ためになった』と言っていただき、リピーターが集まる一因のようです」と小川さんは話す。

しかしそれだけではなく、対話会が盛り上がる原因には壱岐の島民性もあるかもしれない──と篠原さんが続けた。

「たとえば、氏神様が祀られている四十二の壱岐の神社をめぐる『壱岐島 四十二社巡り』。いまとなっては壱岐観光の中でも定番になりつつあるこのPR企画も、もともとはみらい創り対話会の中で生まれたアイデアでした。対話会に参加した高校生たちや神社の神主さんが、自主的にルートの選定や計測などをしてツアーを作ったんです。

正直、対話会が始まった当初はそんなに目立ったアイデアは出ないかもしれないと私も思っていたのですが、島民が自主的にオーナーになり、さまざまな形で企画が具現化するのを目にしているのですばらしいなと思っています。

……もしかすると、“さまざまなところから来た人たちと交流する”ことに慣れている人が多い島なのかもしれませんね。壱岐は、千年、二千年前からさまざまな土地の人々がやってくる場でしたから」

「SDGs未来都市」に選定された壱岐市は今後、ほかにも、 “低炭素の島づくり”を目指したクリーンで持続可能なエネルギーづくりなどの取り組みを推進していくという。再生可能エネルギーのうち、“焼酎かす”などを使ったエネルギーが活用できないかの研究を進めるというのも、焼酎の島である壱岐らしい取り組みだ。

SDGsが見据える二〇三〇年。壱岐はそのころ、スマート農業が浸透し、クリーンなエネルギーが導入された“持続可能な”島に変化しているのだろうか。

「二〇三〇年、壱岐にいる島民のみなさんが、他に行くところがないから嫌々残っているというわけじゃなく、“壱岐で暮らしたいからここに残っている”と思ってくれていたらいいですよね」
小川さんと篠原さんは、十一年後の故郷の姿を見つめるように目を細めた。

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“交流の島”に生まれた島民たちが未来を変える──2030年の壱岐を語る

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