焼酎を味わう際、もっとも身近な飲み方のひとつである水割り。食中酒としてさっぱりと焼酎を飲みたいときや、友人や家族と語らいながら長く焼酎を楽しみたいとき、手軽で気取らない水割りを選ぶ人も多いことだろう。
しかし、焼酎の水割りを用意するときに、“水”そのものの銘柄や種類を意識している飲み手は、意外にも少ないのではないだろうか。今回は、ミネラルウォーターに関する専門知識を持つアクアソムリエ兼焼酎唎酒師である藤澤月菜さんに、焼酎の水割りを美味しく味わうための“水”の選び方について教えていただいた。
水は、「軟水」「硬水」の2種類に分かれており、それぞれ口当たりや風味が異なる。口当たりや風味を変える最大の要素は、“硬度”だ。水に含まれる主なミネラルであるカルシウム・マグネシウムの含有量によって、この硬度が決まる。
「簡単に言えば、軟水は水100mLあたりのカルシウムとマグネシウムの質量が少ない水で、硬水は比較的多い水ということになります。理化学辞典では硬度178 mg/l未満を『軟水』、178 mg/l以上357 mg/l未満を『中硬水』、357 mg/l以上を『硬水』と分類しています。風味としては、硬水は飲んだときに苦みや甘み、ずっしりとした重さがあるのに対して、軟水はするっとまろやかに飲めるのが特徴です」
地形や地層の関係から水に含まれるミネラル分が少ないため、日本のほとんどの地域の水は軟水となっている。そのため、日本の一般的なコンビニやスーパーマーケットなどで手に入るミネラルウォーターの多くも軟水だ。一方で、ヨーロッパや北米などで採れる水の多くは硬水だという。
「特に硬水は、カルシウムとマグネシウムのどちらが多く含まれているかによって、飲みごたえや味わいが大きく変わるんですよ。カルシウムが多く含まれているととろみや甘みを感じやすく、マグネシウムが多く含まれていると、喉に引っかかりを感じるような重さと苦味を感じやすいといえます。
硬水と軟水のどちらがよりよいというわけではなく、風味や口当たりの違いを理解し、シチュエーションによって飲みたい水を選び分けるのがおすすめです」
では、焼酎の水割りを美味しく飲むためには、どのような視点で“水”を選べばよいのだろうか。
「焼酎は蒸留酒ですから、基本的にどれも口当たりはさらりとしています。焼酎の一番の特徴は、芋・麦・米といった原料の違いや製法によって変わる香りにあるので、焼酎が持つ香りを最大限に楽しみたいのであれば、その個性を邪魔しない軟水を選ぶのがよいと思います。もし、『香りはよいけれど、アルコールの苦みがすこし気になる』『もうすこしまろやかさがほしい』と感じたらカルシウム含有量の多い水を選んでみると、焼酎の香りはそのままに、とろみや飲みごたえを感じられるはずです。
ただ、飲みごたえのある水は重み・苦味・甘味を加える効果があるため、食事と合わせてすっきりと飲みたいときには向かない可能性が高いといえます。食中酒として焼酎の水割りを楽しむのであれば、あまり癖のない軟水を使うのがやはりおすすめですね」
実際に水割りの水を選ぶ際は、焼酎それぞれのどのような特徴を見るのだろうか。玄海酒造の焼酎を3種類、藤澤さんに味わっていただき、合いそうな水を提案していただいた。
「『壱岐グリーン』のように、ほのかに甘い香りがあるものの軽やかですっきりとした焼酎には、硬水を合わせてしまうとせっかくの風味が消えてしまうと思うので、硬度が低く、さらりと飲める軟水がおすすめです。一方で『壱岐島 あぶくまる』のように濃厚で飲みごたえがあり個性を感じるタイプの焼酎は、中上級者の方であれば硬水を選んでみると、より飲みごたえを感じられて美味しいかもしれませんね。
『イキボール』はソーダ割りを推奨している焼酎なんですよね。焼酎をソーダ割りにする際は、とにかく香りを楽しみたいのであれば強炭酸水を、軽い喉越しで、バランスよく味わいを楽しみたいのであればほどよい強さの炭酸水を選ぶといいと思います。強炭酸水の中には保存料や酸味料が添加されている商品もあるのですが、やや酸味が立ってしまったり、炭酸以外の味わいを感じてしまったりすることもあるので、お酒本来の個性を楽しみたいのであれば、保存料や酸味料が添加されてない炭酸水を選ぶのがおすすめです」
水割りを食事と合わせるか、単体で味わうか。焼酎の香りを最大限に楽しみたいか、飲みごたえにこだわりたいか。藤澤さんが教えてくれた視点も意識しつつ“水”を選ぶと、より自分好みの美味しい焼酎の水割りが味わえることだろう。次の晩酌の前にはぜひ一度、ミネラルウォーター売り場の前で足を止めて、自分の求める飲み心地に合いそうな水を探してみてほしい。