「本格焼酎」と聞くと、自然と麦焼酎や芋焼酎、あるいは米焼酎をイメージする方が多いのではないだろうか。実際に本格焼酎の原料別グラフ(※)を見ても、さつまいも(芋焼酎)が約四四%、麦(麦焼酎)が約四一%、米(泡盛を含む米焼酎)が約八%となっており、国内で製造されている本格焼酎の約九三%が伝統的な「麦」「芋」「米」の三つの原料のいずれかを用いてできていることがわかる。

(※……平成30年度 単式蒸留焼酎 原料別課税移出数量より)

では、残りの七%にはどんな原料が含まれるのだろう。居酒屋で目にすることもある蕎麦焼酎などを思い浮かべた方もいるかもしれないが、じつはそれら以外にも、バラエティ豊かな原料を用いた焼酎は多数存在するのだ。

たとえば、栗を主原料とする「栗焼酎」や銀杏を主原料とする「銀杏焼酎」がその一例。もっと意外なところだと、なんとサボテンやえのき茸、アロエ、またたび──といった変わり種の原料を用いた焼酎もある。どの焼酎も、それぞれの原料の個性を生かした風味が特徴的だ。

では、なぜ本格焼酎の原料にはこれほどの種類があり、なおかつそれによって味や香りに個性が生まれるのだろうか? ──その理由のひとつに、お酒の“蒸留方法”が挙げられる。

私たちが「焼酎」と呼んでいるお酒の蒸留方法は、連続蒸留機を用いて造られる“甲類焼酎”と単式蒸留機を用いて造られている“乙類焼酎”に分けられる。

連続式蒸留とはその名のとおり連続的にもろみを投入することができる蒸留方法で、繰り返し蒸留をおこなうため、純度一〇〇%に近い多目的アルコールを抽出する。そのアルコールを三五度以下に希釈した焼酎が連続式焼酎の特徴だ。対する単式蒸留はひと窯ごとに蒸留をおこないアルコール度数四五度以下の焼酎を抽出する。アルコール以外の香味成分なども一緒に抽出される。

その蒸留方法の違いによって、連続式蒸留で造られた甲類焼酎は癖のない味わいとなり、単式蒸留で造られた乙類焼酎は原料の風味を活かした味わいとなるのだ。さらに、乙類焼酎のなかでも穀類やいも類、それらの麹、国税庁長官の指定する物品などを原料とするものだけが「本格焼酎」を名乗ることができる。

現在、本格焼酎の主原料として国税庁に認められている材料は、麦や芋、米はもちろん、前述したサボテンやえのき茸といった変わり種も含め、全部で五三種にものぼる。

時代とともに蒸留技術が進歩し、かつては蒸留が難しいと思われていた材料からも本格焼酎が造られるようになった。全国各地で造られ、その土地の名産品が原料として用いられることも多い本格焼酎は、じつに懐の深いおおらかな地酒なのだ。

【壱岐のあれこれ #28】

コラムの中でご紹介した本格焼酎のさまざまな原料。その種類の多様さには、焼酎好きの方でも驚かれたのではないでしょうか。国税庁が認可している本格焼酎の主原料には、そのほかにも大根や脱脂粉乳、たまねぎ、トマト、ひまわりの種、ピーマン、落花生……などが存在します。

壱岐島で造られる本格焼酎、壱岐焼酎の原料は「大麦2/3、米麹1/3」。これは、壱岐島のある歴史に由来しています。室町時代以降、壱岐ではその肥沃な土地を活かした農業が盛んにおこなわれていました。当時は米に対する課税が麦に対する課税よりも厳しかったため、壱岐島民はいつしか、米ではなく麦を日常食とするようになりました。島民たちは麦の余剰が出るとそれを主原料にどぶろくを自家醸造するようになり、島に焼酎の技術が伝わってから壱岐焼酎は、米麹1/3、大麦2/3で造るようになったのです。

島民たちが情熱を注ぎ、長い歴史のなかで切磋琢磨して造りあげてきた伝統的な製法が世界貿易機関に「地理的表示の産地指定」として、その土地に生まれ、その土地で同じ製法で連綿として造られてきたその土地ならではのものとして認定されました。壱岐焼酎を飲むときは、その原料が生まれた背景にも思いを馳せてみてください。

(参考文献……山内賢明『壱岐焼酎』
出倉弘子 編『厳選「本格焼酎」手帖 知ればもっとおいしい! 食通の常識』)

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麦、芋から栗やじゃがいもまで──本格焼酎の多様な“原料”

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