お酒はひとりで、あるいは家族や友人とともに、ただ飲むだけでも楽しいもの。けれど、さまざまな飲み方の工夫を知れば、その時間がより楽しく豊かなものとなる。飲み方の工夫のなかでも、意外と見落としてしまいがちなのが、“酒器”にこだわることだ。

居酒屋や和食店で日本酒をオーダーすると、たくさんあるお猪口のなかから酒器を自由に選ばせてもらえることがある。「お好きなものをどうぞ」と言われたとき、ワクワクしながらも、なにを選ぶべきか迷ってしまう人も多いのではないだろうか。

もちろん、第一印象や見た目の華やかさで決めるだけでもいいのだけれど、せっかくならば“素材”にも着目したい。

一般的に、ガラスの酒器はそのお酒の味わいをもっともシャープに感じさせるため、利き酒などにおいてもガラスの酒器が選ばれることが多い。陶器はガラスに比べると、お酒をやわらかくまろやかな口当たりにしてくれる。そして、金属──特に錫の酒器はあたたかい素材感を持つとともに、熱伝導率が高いので熱燗にもよく向いている。錫はイオン効果が高い素材のため、お酒の雑味をとり除き、まろやかな味わいにすると言われている。

また、日本酒の酒器といえば「お猪口」と「ぐい呑み」が一般的だが、それぞれにどのようなお酒が向いているかはあまり知られていない。お猪口は大きな器と比べると小ぶりで、お酒をいちばんよい温度で飲み干すことができるので、熱燗やぬる燗に特に向いている。反対に、温度変化を感じながらゆっくりとお酒を楽しみたい場合は、ぐい呑みを選ぶのがおすすめだ。

焼酎の酒器については、日本酒以上によくわからない、という人が多いかもしれない。しかし、焼酎は本来その豊かな“香り”を楽しむお酒。飲み方に応じた酒器を選ぶことで、焼酎の香りと味わいはぐっと引き立つ。

焼酎の飲み方は、大きく分けるとストレート、ロック、水割り、お湯割り。ストレートで飲む場合には、香りと味をじっくりと楽しむことができるお猪口や小ぶりな酒器が合う。ロックの場合は氷がすこしずつ溶けて馴染んでいく涼しげな様子と味わいの変化を楽しむために、大きめのガラス製のグラスを選びたい。水割りとお湯割りには、高い保温力がある陶器製のグラスがおすすめだ。

数百年の歴史を誇る本格焼酎には、その土地その土地で受け継がれてきた伝統的な酒器も多い。特に焼酎の本場・九州地方では、各地に個性豊かな酒器を見ることができる。

たとえば、鹿児島には有名な薩摩焼の酒器「黒ぢょか」がある。これは、水で割った焼酎を囲炉裏などであたためて飲むための、焼酎専門の酒器だ。燗にした焼酎の味がまろやかに感じられると根強い人気を誇っており、特に芋焼酎好きには「黒ぢょか」の愛好家が多い。

また、泡盛の本場、沖縄には、「教訓茶碗」という名前の非常にユニークな酒器がある。これは一見ふつうの茶碗だが、一定のラインを超えてお酒を注いでしまうと中身がすべてこぼれてしまうという不思議なからくりを持った茶碗だ。飲み過ぎを防止するための酒器ということで、石垣島に古くから伝わっている。

お酒の香りや味わいをより引き立たせるための酒器や、飲み過ぎてしまうことを戒めるための酒器──。飲み方をさまざまな角度から楽しむためのさまざまな器を知ると、お酒と向き合う時間がより豊かなものになる。

【壱岐のあれこれ#31】

今回の壱岐日和では、お酒を飲む際に意外と忘れがちな“酒器”についてご紹介しました。

コラムに出てきた「黒ぢょか」や「教訓茶碗」のほかにも、独楽のように器の底が安定せず、テーブルに置けないつくりになっているので注がれた焼酎をすぐに飲み干さなければいけない「そらきゅう」(鹿児島)や、丸い胴体の酒器のなかにカラカラと音の鳴る陶丸が入っており、泡盛が空になったことを知らせてくれる「カラカラ」(沖縄)など、九州には実にユニークかつ伝統的な酒器が点在しています。また、玄海酒造のある長崎県では、日用品として使える手頃な焼き物として知られている「波佐見焼」の酒器も人気です。

……ところで、焼酎党の方には焼酎のお湯割りをつくる際、酒器にお湯と焼酎のどちらを先に入れるかで迷ったことのある方もいるのではないでしょうか。焼酎の味の特徴や個性にもよりますが、一般的にお湯割りに向いているまろやかな風味の焼酎に関しては、お湯を先に入れ、お酒とお湯との対流をつくるのがおすすめです。

玄海酒造の焼酎のなかでは、かめ貯蔵の「一支國いき」が特にお湯割りにおすすめ。七○度くらいのお湯と焼酎を六対四で割ると、特にその風味が活きます。お家でお酒を飲む機会が増えたいま、ぜひ、とっておきの焼酎をお気に入りの酒器で味わってください。

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お酒がひときわ美味しくなる、「酒器選び」のコツ

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