「初めてのお酒をテイスティングするとき、まず最初に考えるのは、造り手の方の思いです」とソムリエの富田葉子さんは言う。

「ソムリエという仕事は、醸造家のように何かを自分たちで作り出せる仕事ではありません。だからこそ、造り手の方がどんなスタイルのお酒を目指し、どんな人に飲んでほしくてそれを造ったのかを伝えることこそが、私たちの使命だと思っています」

二十代、初めて飲んだ「オーパス・ワン」の豊かな味わいに衝撃を受け、ワインの勉強を始めたという富田さん。現在では日本ソムリエ協会認定ソムリエとしてだけでなく、ワインスクールの講師としても活動している。シェリーの専門家でもあり、二〇一四年には最優秀ベネンシアドール(シェリーの親善大使)にも認定された。

前回の酒匠・磯野カオリさんのテイスティングに続き、今回は、ソムリエ・富田さんに壱岐焼酎のテイスティングをしていただいた。

 
 

「ワインのテイスティングの場合は、五感を使って、見た目、香り、味を中心に評価するんです。見た目は色の濃さや輝き、粘性などがポイントになり、香りは強さとその要素がポイントになります。

余談ですが、『グレープフルーツのような香り』とか、『濡れた犬のような香り』といった表現を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。あれはもともと、ワインの特徴を伝えるために海外のソムリエのあいだで共通言語として用いられていたものなので、中には日本人には馴染みの薄い表現もあるんですよね。日本でいう『畳の香り』のような、誰にでもイメージできる言葉のひとつ、と考えてもらうとよいのではないかと思います」

「見た目」と「香り」は焼酎にも共通する要素だが、「味」においてはワインと大きな違いがある、と富田さんは言う。

「ワインの味の特徴には、大きく分けて酸味、甘み、渋みや苦味があります。しかし焼酎には酸味や渋みといった要素がないので、その個性をどう伝えるかは少し悩みどころです」

 
 

富田さんにテイスティングしていただいたのは、「壱岐グリーン」「一支國いき」「壱岐スーパーゴールド22」「壱岐スーパーゴールド33」の四種類の壱岐焼酎だ。

まずは、壱岐焼酎伝統の製法を活かした「壱岐グリーン」。アルコール度数は二○度、タンク貯蔵のスタンダードな一本だ。

「これは……水のように清らかで、スルスルと入ってしまいますね。焼酎がこんなに癖がなく飲みやすいのかと、ちょっと衝撃を受けました。度数もそこまで高く感じないですし、ほのかな香ばしさと甘みのバランスがとてもいいので、ロック、水割り、お湯割り、どんな飲み方にも合いそうです。ワインで言うなら、さっぱりした白ワインのようなイメージでしょうか。

お料理もどんなものでも合いそうですが、お刺身であれば、醤油をつけるよりもすだちや塩を合わせるような、淡白なもののほうがより美味しくいただけそうですね。アクアパッツァにも合うと思います」

続いて、かめで長期熟成させた「一支國いき」(二七度)。

「壱岐グリーンと比べると、より香りが複雑でまろやかですね。お湯割りにすると甘みを強く感じるので、ポトフとかだし巻き卵のような、柔らかくてあたたかい料理に合わせたい印象です。それから、香ばしさもこちらのほうが強く感じるので、お湯割りなら焼き魚に合わせてもよさそうですね。

やはり温度が高いほうがまろやかさや香ばしさは強く感じるのですが、これからの季節はロックにしてもすっきりと美味しくいただける一本だと思います」

三本目は、むぎ焼酎壱岐をホワイト・オーク樽に貯蔵し、一年から二年半のあいだ熟成させた「壱岐スーパーゴールド22」(二二度)。

「これは樽の甘やかな香りがしっかりついていて、女性にもファンが多そうですね。樽の成分からくると思われるココナッツミルクやヴァニラの香り、また甘口のシェリーのような香りも感じられ、綺麗に調和しています。これだけ香りに特徴のある一本ですから、それに負けないような、クリームソースの魚料理などに合わせるととてもいいと思います。

お湯割りにしてみると、より香りや甘みが豊かになり、苦味も旨味を伴って広がり、ボリュームが出ますね。焼酎を普段あまり飲み慣れていない方にとっては好き嫌いが分かれるかもしれないので、焼酎ビギナーさんにはロックのほうがよいかもしれません。お湯割りは、酒飲みなら絶対に好きな味、という印象です(笑)」

 
 

ここで富田さんが、シェリーに使用する「ベネンシア」を出してくれた。ベネンシアとはシェリーを樽から汲み出し、グラスに注ぐときに用いられる細長いひしゃくで、現在の日本ではシェリーのプロモーションのためのパフォーマンスに用いられることが多い。

「ベネンシアを使ってお酒を注ぐと、味わい深いしっかりとした酒質であれば、空気接触と温度上昇の効果で香りが広がり味わいがまろやかに感じられるようになるんです。樽熟成の『壱岐スーパーゴールド』には合うと思うので、ちょっと試してみてもいいですか?」

ベネンシアで注いだ壱岐スーパーゴールドを試飲させてもらうと、温度がわずかに上がり、甘みと軽やかさがより強くなった印象だ。「一度注ぎ直すだけでこんなに味が変化するなんて、面白いですよね」と富田さんは言う。

 
 

最後にテイスティングしていただいたのは、「壱岐スーパーゴールド33」。「壱岐スーパーゴールド」の度数を三三度まで上げた一本だ。

「樽の香りという観点で見ると、度数が少し低い『壱岐スーパーゴールド22』のほうが華やかだったかもしれません。こちらはとてもしっかりした味わいがあるので、どちらかと言うと、純粋にお酒の味を楽しむときに選びたい一本ですね。

お料理を合わせるなら、噛みごたえのある肉料理がベストだと思います。でもやっぱりこれは、ロックにして単体でじっくり付き合うのがいちばん贅沢かもしれませんね」

 
 
壱岐焼酎がここまで飲みやすく、香り豊かだとは思わなかった──と富田さん。普段は洋酒党の方も、少し趣向を変えたいときや温かいお酒で体を労りたい夜、壱岐焼酎に手を伸ばしてみてはいかがだろうか。

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ソムリエに聞く、壱岐焼酎の「香り」と「味」

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