普段はどんなお酒がお好きですか? ──そう尋ねると、「“先生、一年一組のなかでどの子がいちばん可愛いですか?”と聞かれているようで、いつも答えられないんです」と磯野カオリさんは笑う。

「音楽の時間はこの子の個性が光るし、体育の時間はこの子の個性が光る……というのと同じように、いつ、なにを、どなたと食べるかによって、いいなと思うお酒も変わってきます」

磯野さんは、日本酒・焼酎のテイスティングのプロフェッショナルである「酒匠」兼、日本酒の魅力を講師として伝えている「日本酒学講師」だ。会社員時代に接待で訪れた和食屋で、山形のお酒「出羽桜」をきっかけに日本酒の美味しさに目覚め、さまざまなお酒を飲み比べるうちに焼酎にも出会ったのだという。

「日本酒にも焼酎にも、もちろんそれぞれの魅力があります。日本酒はワインなどと同じ醸造酒ですから、お米を原料に、発酵させたものを絞って後処理をし、基本的にストレートでいただくわけですよね。けれど一点、ワインと大きく違うのが、日本酒はキリッと冷えたものからぬる燗、熱燗……と、シーンにあわせてさまざまな温度で楽しむことができる、というところなんです。

一方で焼酎は、まず原料が麦、米、芋、蕎麦、黒糖……と実に多岐にわたります。それに、最近では日本酒もカクテルなどが少しずつ流行りつつありますが、焼酎にはもっと古くからロックや水割り、お湯割り、ソーダ割り……とさまざまな飲み方をする文化が根付いていますよね。焼酎は、熟成タイプのようなちょっと癖のあるものを除けば、基本的にどんな料理にもどんなシーンにも合わせられる、とても“懐の深い”お酒なんです」

 
 

日本酒、そして焼酎の専門家である磯野さんに、「壱岐グリーン」「一支國いき」「壱岐スーパーゴールド22」「壱岐スーパーゴールド33」の四種類の壱岐焼酎をテイスティングしていただいた。

まずは壱岐島の居酒屋、和食屋では必ずと言っていいほどそのボトルを見かけるスタンダードな壱岐焼酎、「壱岐グリーン」。アルコール度数は二○度、タンク貯蔵で、壱岐焼酎伝統の製法を活かした一本だ。

「香りは、麦焼酎と米焼酎の“いいとこ取り”をしたような印象ですね。麦焼酎って、一見ライトではあるものの、よくよく探すとパンのような香ばしい香りがすることが多いんです。一方で、米焼酎はフルーティーな香りがします。『壱岐グリーン』はそんな香ばしさと華やかさが同居しているようで、とても魅力的ですね。

飲み方としては、香ばしさと華やかさをダイレクトで感じるにはやっぱりストレートがおすすめですが、お湯割り、水割り、ロック、なんでも合いそうです。個人的には、これが苦手な方は焼酎ぜんぶ苦手かもしれないな……と思うほど、飲みやすくてビギナーさんにもおすすめの一本だと感じます」

春らしい料理とのペアリングを考えるなら、アスパラやふきのとうなどの天ぷらに、キリッと冷やしたロックやソーダ割りがおすすめだと磯野さん。

「グリーンというネーミングからも爽やかなイメージを強く感じるので、春や初夏を感じさせる、青みのある食材は特に合いそうですね」

テイスティングの二本目は、アルコール度数二七度、かめで貯蔵熟成させた「一支國いき」。

「かめ貯蔵の大きな特徴は味がマイルドになることなのですが、これも非常にまあるい印象です。度数は少し高いのでパンチもあるのですが……スーパーボールのように、丸いけれどすごく跳ねる、というイメージが伝わりやすいでしょうか。

これは、お湯割りがとても合いそうですね。まろやかさが特徴の焼酎に関しては、七○度くらいのお湯と焼酎をだいたい六対四で割るとその持ち味が活かせます。お湯割りの場合、焼酎を先に入れるかお湯を先に入れるかを迷ってしまう方も多いのではないかと思うのですが、この『一支國いき』のようにまろやかなものに関しては、お湯を先に入れてお酒とお湯との対流をつくるのがおすすめです」

合わせたい料理は、角煮や肉じゃがなどの煮物だと磯野さん。

「ペアリングというと原料や産地が注目されますが、“温度”のペアリングという要素もあります。お湯割りは熱すぎず、冷たすぎずのお酒なので、同じように熱すぎず冷たすぎない煮物がおすすめですね。特に、角煮はまろやかさとしっかり感が同居していてこの焼酎の印象にとても近い料理なので、ばっちり合いますよ」

続いて三本目は、「壱岐スーパーゴールド22」。むぎ焼酎壱岐をホワイト・オーク樽に貯蔵し一年から二年半のあいだ熟成させた、ファンの多い一本だ。アルコール度数は二二度。

「これは……少しグラスに口をつけただけで樽の香りが広がりますね。日本酒でも、お酒を冷やしたときと常温で飲むときでは印象がまったく異なると思うのですが、お酒って温度を少し変えるだけで、味わいと香りの膨らみが大きく変化するんです。溶けたアイスクリームは、砂糖を足したわけでもないのに凍っていたときよりもずっと甘く感じると例えるとわかりやすいでしょうか。

どのお酒にもそのうま味や甘みが最大限に広がる温度があるのですが、『壱岐スーパーゴールド』は華やかさ、香ばしさ、樽の香りの三重奏がストレートのままでも十分に楽しめますね。冷やして香りを閉じ込めてしまうのが、少しもったいないくらいです。……とはいえ、もちろんロックにしても、バーボンのような印象でとても美味しいです」

合わせる料理は、チョコレートやくるみなどの軽いおつまみでもよいかもしれません、と磯野さん。

「これはとても上質な食後酒という感じなので、ナイトキャップ(寝酒)としていただいてもいいですね。樽の香りのつながりで、レーズンバターなども非常に合うと思います」

最後にテイスティングしていただいたのは、「壱岐スーパーゴールド」の度数を三三度まで上げた「壱岐スーパーゴールド33」。

「これは度数が高いので、よほど焼酎に慣れていらっしゃる方でないと、ストレートで飲むのは少しハードかもしれません。基本的に、焼酎はどんな料理でも引き立たせることのできるお酒ですが、この『壱岐スーパーゴールド33』に限ってはこのお酒を主役にしたほうが楽しめそうですね。

ロックで少しだけマイルドにしてあげて、“あ~いいお酒”と(笑)、寝る前にちびちびと舐めるように飲むのがおすすめです」

 
 

ひと晩でこの四種類の壱岐焼酎を楽しむなら、「最初は野菜や冷たいお魚料理に合わせて『壱岐グリーン』をロックか水割り、お肉料理のときには『一支國いき』をお湯割りで。そして食後に『壱岐スーパーゴールド22』をおつまみと一緒にロックで、もっと飲めるお酒好きな方には『壱岐スーパーゴールド33』を……なんて流れがすてきです」と磯野さんは提案する。

春らしい日の夜、いつもより少しだけ凝った手料理と一緒に、長めの晩酌を楽しんでみたくなる。

 
<後編では、“ワイン”の専門家に壱岐焼酎の魅力を尋ねます>

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酒匠に聞く、壱岐焼酎の「香り」と「味」

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