「スーパー行ったらさ、四角い餅しか売ってなくて驚いちゃったよ」
久々に電話をかけてきたと思ったら、息子は開口一番にそんなことを言った。
受話器の向こうから、人の話し声や車の音が混じった騒音が聞こえる。

「なあに、年末の忙しいときに突然かけてこんでよ」
「ごめん。親父は?」
「そりゃこの時間は仕事しとるよ」

そうだよな、と息子は笑って、「あのさ、三十一日そっち帰ってもいい?」と唐突に言う。「……え? 優子さんも一緒に?」

「うん一緒に。ごめん、いま会社戻ってきたからまたメールする」
驚く間も、怒る間もなく、すぐに電話は切れた。呆れながら受話器を置き、茶の間に置かれていたメモ帳に「丸餅」と走り書きをする。

 
 

朝、凍えるような寒さで目を覚ました。
暖房をつけ、換気のためにほんの少しだけ窓を開ける。あたりはしんと静まり返っていて、鳥の声ひとつしない。布団の中で寝息をたてている夫の顔を見ていると、年の瀬とはいえ、こんな時間から動くこともないかと眠気に負けそうになってしまう。
それでも、せっかくなら新しい家族を清々しい気分で迎え入れたい──と思うのは、母親の古くさい見栄に過ぎないのだろうか。

 
 
一昨年この世を去った母は、私がまだ小さい頃、決まって正月に「かきもち」を焼いてくれた。近所でついた平たい餅をもらってきて、七輪で焼き、砂糖をまぶして食べる。
大人になってから東北出身の知人にその話をしたら、「甘いかきもちなんて聞いたことない。違う料理でしょう」と一蹴されたことがある。自分にとって馴染みの深いその味が故郷特有のものであったことに、初めて気づかされた。

近頃は、壱岐のスーパーでも丸餅と四角い餅が一緒に並ぶようになった。自宅で餅をつく人も年々減っており、我が家も今年は年末のセールで丸餅を仕入れてしまった。なにも悪いことはしていないのに、自分が伝統というものをひとつ消すことに加担しているような気がして、なんとなく罪悪感が湧く。
優子さんならきっと、「お義母さん、お雑煮やおせちをきちんと作るだけでもよっぽど偉いですよ」と言ってくれるとはわかっているのだけれど。

 
 

部屋の掃除をひととおり終えたころ、夫がのそのそと起きてきた。玄関の掃き掃除くらい手伝ってよと檄を飛ばすと、「そうだよな、今年はあいつだけじゃないもんな」とめずらしく文句も言わずに外に出ていった。

鶏がらで出汁をとった鍋を沸かしながら、優子さんたちのためにどのくらいお酒を用意しようか、と考える。前に一度、うちに挨拶に来てくれたときはよく飲んでいたような気がするけれど、もしかしたら私に気を遣ってくれていただけかもしれない。

夫に意見を求めると、「そんなもん、できるだけたくさん用意しといたほうが嬉しいと」と当然のように言う。俺があとで買ってくるよ、ところころ笑う夫を見ながら、母親というのはどうしてこうも気苦労の多い仕事なのだろう、と苦笑いを浮かべてしまう。

雑煮を作り終わったら、ちょうど息子たちがやってくる頃合いだろう。
年が明けたら、三が日だけはきっと母親なんて休んで、くだらない用事をぜんぶ男たちに任せてやる──。そんなことを企みながら、鍋の火を少しだけ強くした。

【壱岐のあれこれ #21】

十二月。仕事を納めたら、年末年始は懐かしい我が家に帰省する方も多いのではないでしょうか。お正月といえば、地域によって個性が出る「お雑煮」の味も楽しみのひとつです。
ストーリーでもご紹介したように、壱岐のお雑煮は鶏の出汁に、ちょっと甘い味つけのお醤油を入れるのがスタンダード。丸餅以外の具材では、野菜よりも地鶏やかまぼこを好む家庭が多いようです。

そして、お正月はせっかくだから日本酒──という人もいるかもしれませんが、やっぱり壱岐は麦焼酎発祥の地。年末年始も、料理のお供には壱岐焼酎が並びます。ロック、水割り、ソーダ割り、お湯割り……とさまざまな楽しみ方ができる万能な焼酎が一本あれば、家族の会話も弾むこと間違いなし。
年に一度、家族が大勢集まる日には、老若男女におすすめできる風味豊かな壱岐焼酎、壱岐スーパーゴールドを用意してみてはいかがでしょうか。

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大晦日の朝

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