観光客として壱岐の港町・勝本を訪れると、島の若い人たちからかならず聞かれる言葉がある。「“ジャム兄さんの店”はもう行った?」

朝市で賑わう勝本浦の商店街の一角に、その店はひっそりとたたずんでいる。ほんの少し斜めになった店先のテントから顔を出したのは、“ジャム兄さん”こと下條くだもの店の三代目店主、下條さんだ。


ジャム兄さんのあだ名の由来は、名物の絶品ジャム。ジャムをつくって売るようになったら、周りが勝手にそう呼ぶようになったんですよ、と下條さんはすこし恥ずかしそうに語る。

「就職して島外にいた僕が、そろそろ店を継ぎたいと思って壱岐に帰ってきたのが九九年のことです。壱岐の商工会の青年部は四十歳までというのを聞いてたので、十年くらいはそのなかで頑張りたいなと思って、三十一歳のときに帰ってきました。

兄貴がいて、僕は次男なんですけど、小さい頃からお店の手伝いをするのが結構好きで。兄弟がふたりいると、不思議と弟のほうが商売人になりますよね(笑)。上はちゃんと勉強してたけど、僕はそうじゃなかったので」

子どもの頃から、初代店主である祖父や祖母が店のくだものを使ってつくる自家製のジャムのつくり方を見ていたと、下條さんは言う。

「つくり方はいまもそのままなんですが、本当に、砂糖とくだものだけを使ってたんですよね。凝固剤とかも一切入れずに。それが綺麗で。
僕がジャムづくりをし始めたのは五~六年前で、きっかけはフェイスブックだったんですよ。ちょうどその頃、フェイスブックが流行って壱岐の人たちが徐々にインターネット上でもつながりだした。そこで知ったIターンの子が、勝本で、観光客の人を対象にした街歩き企画を立てたんです。その企画でうちの前も通るということで、うちにできることってなんやろねって考えていて」

そんなとき、たまたま訪れた宮崎のいちご農家で、お洒落な農家の若者がいちごジャムをつくって販売しているのを目にしたのだという。

「これいいねえって、壱岐に帰ってきて速攻、保健所の許可をとったんです。それで、試作品でつくったりんごといちごのジャムをフェイスブックに投稿したら、いろんな人が食べたいって来てくれるようになって。仲のいい農家の人が“この野菜でジャムつくれないかな?”と聞いてくれるので、リクエストに答えていたらどんどん種類が多くなりました」


いまでは、常時十種類ほどのジャムが店頭に置かれている。季節ごとに一~二種類を入れ替えながら、ひとりで年間約三十八種類をつくり、販売しているというから驚きだ。

「いろいろ研究した結果、ジャムに合うくだものとか野菜が徐々にわかってきて。いまは頑張ってひと鍋分とか二鍋分、毎晩ぐつぐつとつくっています。切らさないようにはしているんだけど、切れたら切れたでしょうがないから、丁寧にやっていますね」

そんな下條さんの言葉どおり、ジャムは委託やオンラインで大量に販売するという方法はとっていない。島内でジャムを置くのは自分の店だけで、オンラインストアも開かないようにしている。

「お土産屋さんとかでうちに置かせてほしいという声もあって、すごく嬉しいんですが、どうしても直接お客さんとやりとりをした上で買ってほしくて。SNSのおかげでここまでジャムが広まったので、もちろんデジタルでのやりとりも大事にしてるんだけど、一人ひとりメッセージをいただいた人に僕から発送する、という形にこだわっています。そうすると、どんな方が買ってくれたかわかるし、ネット上とはいえ“一対一”って感じがするから」


店先に並ぶくだものや野菜は、壱岐産のものを中心に、下條さん自らが足を運び、自信を持って売れるものだけを厳選している。

「スーパーとかよりはたぶんちょっと高いけど、そのぶん鮮度にはすごくこだわってますね。ネットでつながった農家さんとかには、島外でも足を運んで見に行って、うちに置かせてもらうこともあります」

下條さんからお話を聞いているあいだも、小さな店にはひっきりなしに地元のお客さんがやってくる。そのたびに「いまはメロンならこっちがいいとよ」、「きょうもありがとう」とやさしく声をかける下條さんは、本当に島じゅうの人に慕われているようだ。


「うちにしかジャムを置かないのはもうひとつ理由があって、勝本という場所に来てほしいからなんです。やっぱり勝本の朝市は、高齢化で売り手もお客さんもむかしよりは減ってしまっているので、どうにかしてこの街に来てほしい。もっと言うなら、地元の人だけじゃなくて、若手の生産者の人たちも朝市にものを置けるしくみができるといいですよね。ワークショップとかでもいいし」

穏やかな“ジャム兄さん”は、話題が勝本のことに及ぶと、すこしだけキリッとした顔をする。この街のことが、本当に好きなのだ。

この日は、季節柄おすすめしてもらった甘夏と、キウイのジャムを買って帰った。どちらも、市販のジャムでは味わったことのないような舌触りのよさと、果実そのものの甘さや酸っぱさが感じられる絶品。
秋からは、柿のジャムがいち押しだという。ストックがなくなるのがさみしくて、また“ジャム兄さん”のところに足を運んでしまいそうだ。

 
 
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島の人に愛される“ジャム兄さん”のお店──下條くだもの店

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