郷ノ浦のメイン通りにたたずむ「洋食と珈琲の店 トロル」は、カウンターが中心の小さな店だ。手づくりの木製の看板がかわいらしく、古きよき純喫茶のような雰囲気が漂う。
なかに入ると、きっと毎日来ているんだろうなと思わせる年配のお客さんがぽつぽつといて、コーヒーを飲みながらゆったりと新聞を読んでいた。 

電話でテイクアウトをお願いした『壱岐牛バーグサンド』は、できたてのホヤホヤ。店員さんが、着く時間を計算してハンバーグを焼き始めてくれていた。お肉はとても柔らかく、パンにも肉汁がじわっと染み込んでいる。分厚く、ボリュームがあるのにペロッとたいらげてしまえるおいしさだ。

 
 
「トロル」の人気メニューだったハンバーグサンドを、壱岐への出入り口であるフェリー乗り場で販売することを提案したのは、「Iki-Biz(イキビズ)」のセンター長である森俊介さんだ。

「“壱岐牛バーガーの出張販売が好調だけど、外に売りに行くには、お店を閉めなきゃならない”という相談を、トロルのマスターから受けました。人を雇うとお金がかかる。それで卸売を提案したんです」

森さんは、自分でも私設図書室をはじめとする事業を興した経験がある。事業には出費がつきもの。できるだけリスクの少ない提案をしたいと考える森さんに、トロルのマスターが返したのは意外な言葉だった。

「“僕は料理人だから、できたてを食べてほしい。料理の味が落ちるのは避けたい”とおっしゃったんです。そのひとことで、冷めてもおいしい商品を開発したらいいんじゃないかと思いつきました。ヒントは空港の空弁で人気のカツサンド。壱岐の船に乗るときに、ひと口サイズのハンバーグサンドがあったら、船弁に最高だなって」

トロルのマスターが依頼したデザイナーによるおしゃれなパッケージや、「壱岐で壱岐牛、食べました?」というキャッチコピーにも森さんの思いがつまっている。壱岐牛のステーキは絶品だが、三~四千円はしてしまう。ハンバーグサンドなら、手頃な価格で壱岐牛のおいしさを知ってもらえると考えた。

 
 
ほかにも「売上が伸び悩んでいる」「商品の魅力をもっと伝えたい」など、Iki-Bizには、日々さまざまな相談が寄せられる。訪れた事業者は百五〇社以上、リピート率は九十五%。顔を合わせて話すことで、ディレクションの方向性が見えてくるという。

「“こうしたい”という思いが強いのは、主体的に頑張れる人だからこそ。僕らと新商品を開発しても、そのあと売る努力ができなければ意味がありません」

壱岐水産の『うにめしの素』も、事業主の強い思いが生んだ成功例のひとつだ。祖父母が創立した会社の製品をもっと若い人に知ってほしいと、ある日、女性がIki-Bizに相談しにやってきた。

小さい頃から祖母を訪ねてたびたび壱岐に来ていたというその女性は、福岡からIターンして壱岐水産に就職したのだという。女性は自分でデザイナーを探し、試行錯誤しながら『うにめしの素』『粒うに』『粒うにと貝』という三つの商品のパッケージを一新。古くからのファンのためにこれまでのパッケージの商品も残しながら、若者が手に取りやすいサイズとデザインのものも販売し始めた。
森さんたちがその奮闘ぶりや商品の魅力をSNSやプレスリリースを通してPRした甲斐もあって、最近では、壱岐水産の商品が雑誌やSNSで紹介されることも増えてきたという。

 
 
人との距離が近い壱岐だからこそ、ちょっとした世間話から新しいサービスが生まれることもある。

「『Shoes OKUNO』さんのケースでは、“これからもっと人も減るだろうし、靴屋を営むのは厳しい”という社長との雑談から、『靴のお試しテイクアウト』というサービスが生まれました。入院中だったり介護を受けていたりすると、自分ではなかなか靴を買いに行けませんよね。
でも、おしゃれは入院中ほどしたくなるという話を聞いたことがあったし、なにより、靴って自分で実際に試してみないとサイズがわからないので、代理の人に靴を複数持ち帰ってもらい、あわなかったら返品できるようにしたらどうかと話したんです。そしたら、社長もすごく乗り気になってくださって。これならサイズはもちろん、デザインも好きなものを選んでもらえる。ECサイトでも返品可能なところは多いけれど、高齢者にはなかなか使いづらいですからね」

Iki-Bizスタッフの梅田さんはデザイン、副センター長の平山さんは広報とマーケティングが専門。新商品の開発やリニューアル、住民の困りごとを解決するサービスの提案は、Iki-Bizが得意とするところだ。お互いの強みを引き出しあう、三人の息のあったチームワークがあってこそ、この仕事が成り立つのだろう。

 
 
「天国からいちばん近い島」とも呼ばれる壱岐の美しい風景を伝えるために、壱岐島オフィシャルのInstagramもはじめた。壱岐に興味を持ってくれた人が「行ってみよう」と行動に移せるように、宿やグルメの情報を集めたポータルサイトの制作も進めている。

森さんが考える壱岐の課題は、いいところがたくさんあるのに知られていないことだという。

「壱岐のアスパラとか、めちゃくちゃおいしいんですよ。壱岐牛も、神戸牛や松阪牛の種牛なのにみんな知らないし。ブリやイカも最高。イカなんて呼子に全然負けてないのに、本当にもったいないなって」

おいしいものの話をしだすと止まらない森さん。壱岐のよさを聞くと“海や自然”という人が多いけれど、森さんは花より団子のタイプのようだ。

そして何より、壱岐は人が素晴らしいと目を細める。

「日々いろんな人が訪ねてきてくれるんですが、すごく気持ちよく接してもらっていて。壱岐の人たちは、自分を大きく見せようとしない。いつも自然体なんです」

アピール下手だけど、人をまるごと受け入れるあたたかさに満ちた島。それはどこか、シャイだけれど、島のことになると熱心な森さんの人柄とも重なる。
これから移住を考えているなら、ぜひ壱岐にきてほしい、と森さんは語る。

「仕事はいろいろあるし、僕らもきっとお手伝いできます。なにより壱岐には、やり尽くされていないことがたくさんある。自分のアイデアを試し、努力する余地がある場所です」

島の未来をまっすぐに見つめる森さんの姿から、新しい場所に向かう勇気がじわりと染みこんできた。

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いつでも自然体でいられる場所――離島のおしごと相談所(後編)

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