郷ノ浦港から南に車を二十分ほど走らせると、背の高い木々の立ち並ぶ堤防が見えてくる。その先にあるのは、地元の人たちに「あと岬」と呼ばれ親しまれている岬だ。

 
一見ふつうの海岸に見えるが、引き潮になると海底からごつごつとした岩場が顔を出し、巨大な潮だまりが現れる。満潮時に沖に戻りそびれた小魚がそのなかでのんびりと泳いでいるさまは可愛らしく、自然観察をするにも楽しい場所だ。

 
「空いた時間によくここに来て、岩場からフェリーの往来を眺めてるんです」
私たちを「あと岬」に案内してくれた、Re島PROJECTのメンバーの市山恵さんはそう言う。市役所の観光担当になってからあらためて壱岐のよさに気づいたという彼女は、有名ではないけれど魅力的な観光名所をたくさん知っている。

 
「たとえば、『ひいごしの浜』は、時期によって砂浜が海に覆われてなくなってしまうこともある不思議なビーチで、綺麗な白い砂と真っ青な海のコントラストが魅力です。ほかにも、岳ノ辻のそばにある『どんどろ洞窟』も、自然がそのまま残っていて、なかにコウモリがいたりして面白いし……」

壱岐の好きな場所の話をし始めると、止まらなくなる。その横で市山さんの話をニコニコと聞いていた本田政明さんとスエダマシューさんも、「砂浜ならあそこが」「夕日ならあの場所のほうが」と時折、口をはさまずにはいられない。
本田さんはRe島PROJECTのとりまとめ(※二〇一八年三月現在)を、マシューさんは国際交流員として外国人観光客の対応などを担当している。プロジェクトを手がける市役所の人々は、皆、壱岐が好きでたまらないのだ。

 
 

離島に観光客や定住者を呼び寄せるため、これまで離島に住む“人”にスポットを当てて活動してきたRe島PROJECT。しかし当然ながら、いくらそこに住む人たちが魅力的であろうとも、最低限のインフラは整っていないとなかなか人は集まらない。そこで昨年度からは、外国人観光客やオリジナルツアーの参加者数の増加も目標に見据え、さまざまな取り組みを進めてきた。

 
そのひとつが、マシューさんが中心となって進める「マシュー’S 交流カフェ」だ。月に一度、国際文化交流や外国人とのコミュニケーションを目的として、マシューさんが英会話や外国文化を教えるカフェスタイルの講座を開いている。カフェには毎回、マシューさんを慕って島じゅうから多くの人が集まる。

 
「壱岐のよさを外国の人たちに伝えるのはもちろん、僕が育った島のよさも壱岐の人たちに伝えられたら」。ハワイ育ちのマシューさんは、まぶしいほどの笑顔でそう語る。壱岐の海はハワイの海と同じくらい綺麗だと、マシューさんは目を細めて話してくれた。

 
 

壱岐市では昨年、島外から壱岐で仕事をする人たちのために、Wi-Fi環境を整備したコワーキングスペース兼サテライトオフィス「フィリーウィルスタジオ」も開設。現在は東京や福岡のIT企業がオフィスとして使用しており、“離島では仕事がしづらい”というイメージを覆しはじめている。また、移住者のためのシェアハウスも開設した。

 

マシューさんの存在やフリーウィルスタジオ開設の甲斐もあって、徐々に壱岐の新しい魅力は増えている。Re島PROJECTは、それらもとり入れ、他の島との差別化を図っていく。今後の目標は、「それぞれの島に住む人たちが、自分の島の魅力を積極的に発信できる仕組みづくり」だと市山さんは言う。

 
「いまは対馬市、壱岐市、新上五島町、五島市、屋久島市という五つの島の情報発信を、壱岐が中心になっておこなっています。けれどやっぱり本当は、それぞれの島に住む人たちがその島の魅力をいちばん知っているはずですよね。
私も五つの島には行ったことがありますが、たとえば『あと岬』や『ひいごしの浜』のようなマニアックなスポットは、そこに住む人からしか発信できない。だからこれからは、そういった発信をもっとしやすいようにして、Re島PROJECTが運営するWebサイト『Re島ちゃんねる』が離島のポータルサイトとして機能するようになってほしいと思っています」

 
 

島に人を呼ぶため、InstagramやFacebookを通じた情報発信も怠らない。壱岐の美しい自然や食べ物の写真は人気を呼んでいるが、「ネットで見て『いいね』を押してくれる人の数と実際に来てくれる人の数はまた別」と市山さんは冷静だ。

 
「必要なものはネット通販でも買えますし、壱岐にないものは船に乗れば福岡でも手に入る。だから、島外の方が想像するほど壱岐は不便じゃないんですよ。一度来てみてほしいな、と思います。ネットで補えるものは多いけど、新鮮な食べものや美しい自然だけは、どうしても補えませんから」
そう言って微笑む市山さんの隣で、本田さんとマシューさんがうんうん、と大きく頷いた。

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もう“不便な島”とは呼ばせない──離島を再生する「Re島PROJECT」(後編)

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